国立科学博物館の館長である真鍋真さんと山田五郎さんが恐竜について語る対談本。
恐竜の研究者に恐竜大好きな五郎さんがツッコミながら進行する形式で、
終始たのしく驚くべき最新の恐竜事情が楽しめた。
意外なことに、恐竜を研究する古生物学はまだまだ発展途上の学問で、
今も目まぐるしく学説が覆りまくっているという。
そんな「なるほど」とともに恐竜の魅力を改めて発見する、とてもいい機会になった。
すぐに変わっちゃう!恐竜の常識
今と昔で恐竜の常識はだいぶ変わっている。
たとえばティラノサウルスは昔の図鑑では直立の二足歩行で直が主流だったが、今は前傾姿勢が常識。
恐竜が鳥に進化したのは広く知られつつあるが、始祖鳥ではなくティラノサウルス類からの進化だったり。
水の中に住んで頭の上の鼻で呼吸をしたというブラキオサウルスも、心臓が水圧に耐えられないという理由で、
現在では陸上に住んでいることが常識に。鼻も通常の位置にあったという説が今では有力だという。
こんなことが起きるのは、昔の恐竜の研究は、少ない情報から推測して断定しちゃったものが多かったからだそう。
これは発見だ!と、全身のわずかな部位の化石の部位からすぐに断定してしまう。
しかし後からもっと情報の多い化石が見つかって、学説が覆る。こんなことが恐竜研究では日常なのだ。
だから今日にでも有力な化石が見つかれば、これまでの常識が明日からいきなりひっくり返ってしまう。
科学がこれだけ発展した今の世の中で、こんなあやふやでロマンしかない学問があったのか!
と驚いたと同時に、そんな常識外れがまかり通る恐竜のスケールのデカさにワクワクしてしまった。
今の恐竜を、今だけの思い出に。
この本のもうひとつ、おすすめの楽しみ方は、読んで親子や家族で恐竜の話をすることである。
昔の恐竜と今の恐竜が違う話をすれば、五郎さんたちのように盛り上がること間違いなし。
最新の恐竜事情とお家の図鑑を見比べてみたり、未来の恐竜はどんなことになるのか想像したり。
知的好奇心を刺激するひと時がきっと楽しめるはずだ。
将来ぜんぜん違う恐竜の説が出てきたときに、今の恐竜のことが思い出として蘇る
なんて思うと、ちょっと素敵じゃないですか?
そうやって新しい発見が世代ごとの思い出として、恐竜は受け継がれていく。
だから恐竜はいつの時代も、大人から子供まで無邪気に楽しめるのかもしれないですね。
博物館の恐竜展示も見え方が変わる
これを読んだ後、ちょうど国立科学博物館で開催されていた「恐竜博2023」にも行ってみた。
そこでは最新の体表組織の大部分が発掘された鎧竜「ズール」や、
状態の良い軟組織(筋肉や内臓など)が世界で初めて出土したニュースなど、
ただカッコいい巨大な骨を展示する以上の、学術的な大発見がいくつか公開されていた。
世界初!と言われるだけでは「そうなのか」という程度の感想で流れてしまうところだが、
ひとつの発見がすぐに常識をひっくりかえしてその場で歴史を修正してしまうのが恐竜学
と知ってから見ると、その発見がどれぐらいの影響力を持っているのだろう、
今後どんな学説に派生するんだろう、とワクワクが止まらず、
これまでとは展示の見え方もまったく違うものとして楽しめた。
未来が楽しみすぎる恐竜学
テクノロジーの進化に伴い、新しいことが日々発見されていく古生物学。
たとえば化石を薄く切ったときの色素成分によって色が判別できるようになった恐竜もいるらしい。
(すでに10種ほどの恐竜の色が判明しているという!)
今も解明されていない謎を、まだまだ推論や想像力で補っている部分が多い恐竜学。
技術の進歩に伴って謎がひとつひとつ埋まっていくのをタイムリーに追いかけていける、
とてもエキサイティングな学問だ。
そして技術革新と想像力の追いかけっこは今後ますます加速するだろう。
恐竜のDNA復元なんかも、いつかは現実になる可能性もゼロではない。
(少なくともデジタルなら想像なしの完全復元も遠くない未来に実現しそう)
恐竜は家族で一生楽しめる。そんな魅力に改めて気づかせてくれた楽しい一冊だった。
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