パワードスーツといえば、日本では機動戦士ガンダムや新世紀エヴァンゲリオンなど巨大なロボットものから、海外はアイアンマンなど等身大の超人ヒーローまで、SF界ではとてもメジャーな存在だ。
パワードスーツSFの最新作を揃えた短編集『この地獄の片隅に』を読んだところ、そんなイメージしていたロボットやヒーローものとはまったく異なるパワードスーツ像が多数見受けられとても興味深かった。
かたやこちらも気になっていた作品で、パワードスーツ作品の原点とも言われる古典SF『宇宙の戦士』も読んだ。
これはこれで古典独特のクセはありつつ、原点といわれる所以も垣間見える名作だった。
原点と最新の2冊を読みくらべて、古今SFのパワードスーツ観についてちょっと考えてみた。
ガンダムの元ネタ?パワードスーツの原点作品『宇宙の戦士』
恐るべき破壊力を秘めたパワードスーツを着用し、宇宙空間から惑星へと降下、奇襲をかける機動歩兵。地球連邦軍に志願したジョニーが配属されたのは、この宇宙最強部隊だった。肉体的にも精神的にも過酷な訓練や異星人との戦いの日々を通して、彼は第一級の兵士へと成長していく……。
Amazon.co.jpより引用
巨匠ロバートAハイラインの代表作品で以前から気にはなっていた。ジュンク堂のフェアで「10代の頃に読めばよかった本」という棚にあり、なるほど青春文学なのかと手にとり読んでみたところ、確かにど真ん中の青春小説だった。
若者が戦闘(訓練)を通じて成長していくストーリーという設定はエヴァやガンダムに似ていなくもない。ただしこちらはアメリカの軍隊の訓練をリアルに描いているシーンが内容の半分以上を占める。
ロボットやバトル系の話をイメージして読むと、あまりのリアル軍隊話に面っ喰らってしまった。
描かれているスーツもモビルスーツのような巨大で破壊力抜群なものとはちょっと違う。
人が装着する機械の鎧、まさにスーツといった感じ。機械部位や兵器の詳細な描写もほとんどなく、特殊能力といえば異常な跳躍力ぐらいで、火力で物を言わすようなバトルもほぼ描かれない。(後に「スターシップトゥルーパーズ」という実写映画で詳細が描かれる)
この作品は現代アニメのようなパワードスーツ像を期待して読むとけっこうスカされる。
むしろ読みどころは、アーミーものとしてのリアリティ、そっちの方である。
この作品が日本で発表された1950〜60年代、戦後の復興期に日本の若者(特に男子)であれば、多くが身近な脅威かつ興味の対象としてあったのが、戦車や戦闘機などのミリタリーものだったと予測できる。
しかも最強のアメリカ軍の実態がリアルに、同世代の物語として体験できるとすれば、誰もが興味をそそられることだろう。
そこにみたこともないパワードスーツなる戦車や戦闘機を超える存在が合わさったとなれば、夢中にならないはずがない。
『宇宙の戦士』リリース時はそれが最高の興味対象として受け入れられるのに、またとない時代環境だったのだろう。
今のように人気の小説をすぐにアニメ化や映像化する技術もビジネスもない時代、表紙や挿絵のイラストからしか想像できないパワードスーツは、当時の男子の好奇心を爆発的にくすぐる、至上のワクワクモチーフだったのではないだろうか。
あらゆるパワードスーツやロボットがひととおり描かれた後に生まれた自分たちの世代が読んでも、そこに物足りなさを感じるのはある意味しかたない。
この作品の果たした意義は、当時の最大の興味分野に、最高の未知を組み合わせた、SFの新ジャンルの発明。想像の余白を大きく残してパワードスーツというジャンルの第一歩を開拓した、というところに尽きるだろう。
日本ではガンダムの原点のひとつとも言われ、海外ではHALOなど後の多くの作品に影響を与えた。それだけアーミーとパワードスーツが情熱と想像力を刺激する存在だった証拠だ。
そうした想像力を刺激された日本の若者が、のちにロボットものの作品群を次々と生み出していってくれたことは、先人のクリエイティビティに感謝するばかりである。
人間とパワードスーツの無限の可能性を予言する『この地獄の片隅に』
最新のパワードスーツSF作品を集めた短編集『この地獄の片隅に』は、パワードスーツ作品がたどり着いたあらゆる最新アイデアの見本市といった感じで、非常に多彩なパワードスーツの魅力を楽しめた。
表題作「この地獄の片隅に」は、おそらく『宇宙の戦士』をリスペクトしているオマージュ作品。
こちらはスーツの描写やバトルの詳細も今風にリアルに描かれる。「宇宙の戦士」を彷彿とする厳しい軍隊の進軍や、過酷な惑星でのサバイバルがスリリングに描かれるが、予想外の壮絶なオチが待っている。
読み終わっても興奮したまま、次の話はどう来るの?と期待して読み進められる仕掛けになっている最初の1話である。
特にアイデアが印象的だった作品をいくつか紹介しておくと、
「ノマド」は人工知能異常の自由意思を持ったパワードスーツが人間とバディを組む、“絆”をテーマにした作品。
人間とほぼ同じ意思を持った存在として描かれるスーツの姿は新鮮で、しかし“人間と組むことが自己の存続のためになくてはならない”という設定がよい縛りになって、物語が面白い展開に進んでいく。
「アーマーの恋の物語」は、訳あってアーマーを決して脱がなくなった男と、とある職業の女性との恋愛ストーリー。
アーマーが非常にスタイリッシュなものとして描かれるが、当然普通の恋愛をするにはスーツが障壁となる。これが物理的な壁と心の壁と二重に描かれていて、おしゃれかつミステリアスな展開がおもしろい。
「天国と地獄の惑星」は、人類を襲う植物に覆われた星に、パワードスーツを終身的に身につけた集団が島流し的に調査に送られる話。
いろいろな意味で生命について考えさせられる、短いがちょっと崇高なテーマにふれる物語で心に残る。
他の作品も歴史ifや、宇宙の果てで時間をループする話など、そのアイデアの幅には驚くばかり。
どの作品もただのロボット話ではなく、“人が着る”という関係性を重要なポイントとして描いている。だから絆や愛や生命など、人間らしさに踏み込む深いテーマも違和感なく語ることができる。
日本でも海外でも人の心を動かすスーツのヒーローたちが多々生み出されたのにも納得がいく。
生命と人間らしさを中心的な価値観に据え、想像力を無限に掻き立てる。それがSFにおけるパワードスーツのもつ偉大なチカラだと感じた。
ロボットやAIがいよいよ実用化されつつある現在、機械やAIとの共生社会を予測したりエンタメ化したりするパワードスーツSFは、ますます人の気持ちや社会的な考察がリアリティを増して、今がいちばん読むべき旬な時だと感じる。
数年後にはAIやロボットが一気に空想から現実のものに変わっているだろう。そのときにこのストーリーたちが描くロボットと人間との関係がどのように感じられるか、という観点で読み返すのも楽しそうだ。
テーマ作品集でお宝さがし
テーマ別の短編集は作品もバラエティに富んでいるが、作者もさまざまな人たちが存在する。
賞をとった作品や、有名な作家の作品をメインにしている短編集も多いが、『この地獄の片隅に』は星雲賞ノミネートがいくつか含まれるものの、受賞作品を売りにしていたり有名作家がメインを張っているということもない。
にもかかわらずひとつのテーマにこれだけ魅力的な、しかもレイヤーのまったく異なる作品が集まったのは脅威的である。選者のJJアダムズ氏に感謝しきりである。
中国SF短編集「折りたたみ北京」もそうだったが、日本ではマイナーだけどとくに注力テーマがある作家さんや、これから活躍が期待されるであろう若手の作家さんなども多く参加しているのも、短編集の魅力のひとつ。
評判だから読んでみたら「この文体合わないわ〜」となってしまう長編にいきなり挑むよりも、お気に入りの作家さんや、自分が興味を持てるテーマや文体に出会いやすいのも、読書初心者や時間があまりない人にとってはお得である。
パワードスーツSFは当たりテーマだった。こんな最先端のアイデア見本市のような作品や、知られざる優れた名品が集まる作品集をこれからも探り当てて、いいものを見つけたらどんどんシェアしていこうと思う。
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