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【おすすめSF】読書でしか味わえないナナメな主人公がジワる『マーダーボット・ダイアリー』|おすすめ本レビュー(ネタバレなし感想)

アニメ・SFオタクでもある岡田斗司夫さんもイチオシの冒険SF。

書店で何気なく裏表紙のあらすじを読んでみたところ、まず設定に惹かれた。「暴走機械が、連続ドラマにハマる・・・?」

そして立ち読みした1行目がいきなりナナメで面白い。これまで読んだ本の中でもダントツの冒頭だった。

ニヤニヤしながらライトに読めて、ときどきグッとくる。そして今っぽくもある。

アニメ化や映画化も期待できそうなエンタメシリーズだが、本作は何よりも“読むことで”最大限に味わえるおもしろさが特徴なので、その魅力を紹介していこうと思う。

これおすすめです。

こんなひとにおすすめ
  • クセ強めなイケメンが好きなひと
  • むずかしくないSFが好きなひと
  • 少年ジャンプ的な成長ストーリーが好きなひと

※上下巻に中編4作が連作で収録されている。話のまとまりとしても読みやすい。

目次

ナナメで優秀?コミュ障機械の大冒険。

あらすじ

かつて大量殺人を犯したとされたが、その記憶を消されている人型警備ユニットの“弊機”は、自らの行動を縛る統制モジュールをハッキングして自由になった。しかし、連続ドラマの視聴をひそかな趣味としつつ、人間を守るようプログラムされたとおり所有者である保険会社の業務を続けている。ある惑星資源調査隊の警備任務に派遣された弊機は、ミッションに襲いかかる様々な危険に対し、プログラムと契約に従って顧客を守ろうとするが……。

Amazon.co.jpより抜粋

主人公は警備ユニットと呼ばれる人型機械(アンドロイド)で、警備会社のプログラムを自らハッキングして自由を得た。所有する企業から見れば不良品とも言える、意思を持った機械である。

この意思をもった機械”の描かれ方がとてもユニークで、それがこのシリーズのいちばんのおもしろポイントになっている。

設定だけ見るとAIの暴走のような話だが、主人公の“弊機”(へいき:自分をへりくだった呼称)はまったくの無害。連続ドラマが大好きなサボり屋だが、仕事にはまじめで人間を全力で守る、強くて優秀な警備ユニットとして描かれる。

サボり屋なのに真面目でやさしいって「?」と思われるかもしれないが、その二律背反する性格と行動が頭の中で葛藤するキャラクターこそが“弊機”の魅力なのである。ナナメだがめっちゃ人間くさくて、実はイイ奴なのだ。

そして暴走を悟られないようにするために、人間たちからの見られ方を過剰に意識してしまい、ただでさえ人間と触れ合うことが苦手な弊機は、完全にコミュ障の若者のようなキャラとして人間たちと冒険していくことになる。

そんな“弊機”にも、かつては暴走して大量殺戮を行ったという過去がある。その記憶は抹消されているのだが、とある大企業が絡んでいることが判明し・・・

この謎を自らと向き合いながら解いていく壮大なストーリーも、読みどころのひとつとなっている。

ややクセ強な一人称語りが、クセになる。

そんなクセ強めの主人公が人間やサイボーグたちと惑星を股にかけて冒険するのだが、この作品の最大の魅力は何といっても弊機の“一人称語り”にある。

弊機は常に仕事を面倒なものと考えており「はやく終わらせてドラマ見たいわ〜」というサボり屋の態度で仕事に臨んでいる。そして非効率で無駄の多い人間の行動や感情にいちいち不満を感じている。

この常に何らかの煩わしさを抱いている心の声を、すべてこちらに一人称語りでさらけ出しながら冒険が進んでいくのがマーダーボット・ダイアリーの文章的な特徴である。

まさにコミュ障男子のうだうだ日記を読むような感覚で冒険が進んでいくのだ。これがジワジワ笑えておもしろい。

話が進んでいくと、このうだうだの独り言に介入してくる存在(詳しくはぜひ本編を!)が現れたりしてドキっとしたり、構成にもアイデアがあって読み応えも十分だ。

基本は人間に対して愚痴るスタンスなのだが、連続ドラマ(これは人間たちが見るドラマ)にハマっていることからも推測できるように、実は弊機は人間たちに深い興味を抱いている。

だから不可解な思いと葛藤しながらも、常に全力で仲間のために命をかける。そこから熱いバトルや感情が動かされる展開へと発展したりと、メンタルもしっかり揺さぶってくれる。

熱い冒険ドラマとクールな語りのギャップがとてもイイ味を出していて、独特の高揚感を味わえる。それも本作をおすすめする大きな理由である。

守られる“弱者としての人類”から読める多様性

マーダーボット・ダイアリーの世界にはサイボーグや強化人間、意思を持った機械たちや異星人など、多様な人種が登場する。主人公を雇う研究者たちは人間であり、一応は人類がマジョリティとして宇宙社会が描かれている。

ただしこの物語の世界では、人間は常に肉体的には弱い立場で、機械や警備ユニットに“常に守られる存在”として描かれている。「人間は弱いのにいつも愚かな行動をする」という謎が、弊機の好奇心を常にくすぐり、だんだんと理解していったりいかなかったりする。(それは愛や誇りのような人間独自の感情だったりするからなのだが

多くの人種が描かれ、差別やジェンダー、武力と権力構造など、現実の未来を占うような多様性を、独自の視点で描いているのも、この作品のおもしろさのひとつである。

いいSF作品は社会学的な視点が優れているものが多いと思うが、この作品はその点でも魅力的だ。

ナナメで純粋な、弊機目線で切り取る宇宙社会。シリーズはこれからも続いていくようなので、弊機たちの数奇な冒険と運命をぜひ、お楽しみいただけたらと思う。

(続編を読んだらまた記事書きます)

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